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詩織さんのレイプ被害に対する警察の対応について,犯罪被害者支援の視点から考える

by 安西敦

詩織さんのうけた性被害についての会見で,性犯罪被害者への警察の対応について,極めて問題のある事実が多数指摘されたのに,まだ議論がなされていない点が残っていると思う。そこで,会見で話された事実などをもとに,どんな問題があったのかを犯罪被害者支援の観点から考えてみたい。

引用した事実は以下の二つのコンテンツをもとにしている。

            ・2回目の会見。警察の対応の問題点が説明されている。

【音声配信】「詩織さんのインタビューから考える〜性暴力被害と司法やメディアの問題とは」▼6月7日(水)放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」22時~)

            ・事件直後からの事実経過が詳しく述べられている。

性被害について繰り返し話をさせたこと

まずはこの点から検討したい。

詩織さんは,被害を受けた後,近くの警察署に行き,窓口で性被害に遭ったことを告げて女性警察官の対応を求めた。
そして,最初に対応した女性警察官に対して被害を受けた経過を2時間にわたって話した後で,「自分は交通課だから話を聴きとることができないので警部補を呼んできます,警部補にもう一度お話をしてください」と言われている。
そして,出てきた男性警部補に再度詳しい話をしたところ,「事件の管轄はここではないから,高輪警察署に行って話をしてください」と言われ,さらに高輪警察署に行くはめになり,そして高輪警察署でまたはじめから事実の説明をさせられている(https://www.tbsradio.jp/153884より)。

まずこの対応が信じがたい。
性犯罪被害者に事件について尋ねるということは,自分がどういう被害に遭ったのかについて思い出させ,再度,詳細に頭の中に思い浮かべさせ,それを説明させるということである。それがどれほどのダメージを被害者に与えるのかを想像してほしい。だから,性犯罪被害者に,被害について説明を求める回数はできるだけ少なくしなければならない。被害者の対応にあたる警察官であれば,当然知っているはずの基本中の基本である。最初の警察署で,最初の警察官が2時間も話をさせ,さらに警部補に話をさせ,さらに他に回すなど,およそまともな対応とは言えない。

本来は,詩織さんが警察署を訪れ,性犯罪被害に遭ったことを説明して女性警察官の対応を求めた時点で,その事件に対応可能な女性警察官のもとに引き継がれるべきで,その人に1回だけ事実関係を説明するようにすべきだったし,できたはずである。

「処女ですか?」という質問

「捜査員のみなさんから、『処女ですか?』と質問されました。『なんのための質問ですか?』と聞いたら、『聞かなくてはいけないことになっている』と。捜査のガイドラインに載っているんだと思いますが、そうならとてもおかしいことだと思います」
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170608-00010012-jisin-soci

被害を受けた女性にこんな質問をするなんて信じられない!という批判が多くなされている。私ももっともだと思うが,現在の刑事裁判実務では,強姦事件において,処女膜裂傷による強姦致傷が成立するかどうかが問題になってくる。強姦致傷になれば,準強姦よりもずっと刑が重くなる。取調にあたった警察官としては,この質問をしなければならなかったという状況は理解できなくもない(そもそもそれを重視する実務への批判は既に各所でなされているが)。

しかし,被害者支援についてまともにトレーニングを受けている警察官なら,もう少し丁寧に質問するはずである。例えば,こう説明していればどうだろう。

「立ち入ったことを聞いてすみません。なぜこんなことを聞くのかと思うでしょうけれど,理由があるんです。被害者が寝ている間に同意なくセックスをすると,準強姦罪が成立して,刑法では,3年以上の有期懲役になることになっています。でも,同じことでも,処女なのに強姦されたということになれば,強姦致傷罪が成立する可能性があるんです。そうすると,5年以上の有期懲役か無期懲役になることになっていて,刑がずっと重くなるんです。だから,申し訳ないのだけれど,相手の刑が重くなるかどうかに関わる事実だから,できれば答えてもらえませんか。」

こう質問されれば,不快な思いをしたとしても,詩織さんのいうような受け止め方にはならなかったはずだが,こうした説明はなかったのだろう。

しかも,本来はこれだけの注意を払ってしなければならないはずの質問を,何人もの警察官が重ねてしている。おそらくは同じように不用意にだろう。1回尋ねて情報を共有すればいいだろう。まったく理解しがたい。

被害現場の再現の実況見分

「所轄の高輪署では、男性警官がいる前で私が床に寝転がり、大きな人形を相手にレイプされたシーンを再現させられました。さらにそれを写真に撮られるんです。口頭で説明すれば状況はわかることなのに、なんでこんな屈辱的なことをしなくちゃいけないのか。ほんとうに苦しかった……」
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170608-00010012-jisin-soci

裁判所に提出する証拠を作成している場面である。犯行再現の実況見分と呼ばれる。どういうことがあったのかをわかりやすく示すために,動作をしてそれを写真に撮るのである。

疑問なのは,なぜ,被害者自身が寝転がって人形の相手をさせられているのかである。現在では,ダミー人形を使って,被害者役の人形に対して警察官が加害者役として演技するのを撮影し,その姿勢などは横に立った被害者が指示するという形が標準的な捜査手法であるはずである。

また,「口頭で説明すれば状況はわかることなのに」という発言から,事前に十分な説明がなされていなかったことがうかがえる。例えば,こんな説明があったらどうだろう。

「人形を使って再現をするのは,あなたにとっては犯行の場面を思い出してしまって苦しいと思いますが,相手を処罰するためにどうしても必要なのです。加害者があなたの言い分をすべて認めればいいのですが,認めない可能性もあります。そのときは,裁判では,あなたの言い分だけで何があったかを証明しなければならないんです。事件の記憶は,だんだんと薄れていきます。相手と言い分が食い違ったときにきちんと説明できるように,今の段階で,どういう行為があったのかを動作で再現してみることで,あなたの言い分をより詳しく記録することができます。動作をしてみることで,細かい記憶が戻ってくることもあるんです。また,裁判官には,口だけで説明するよりも,写真で行為を見せた方が,相手がどれだけひどいことをしたのかについてよくわかってもらうことができます。だから,相手を処罰するためにも,あなたの協力が必要なのです。苦しいと思いますが,私たちも可能な限りのサポートをしますから,再現に立ち会ってもらえませんか?」

「再現のところでは,こういう作業をします…(人形のこと,写真を撮ること,誰が立ち会うかなどについて詳細に事前に予告しておく)」

これなら,同じ作業をしたとしても,被害者の負担は少しでも軽くできたのではないだろうか。しかし,そういった説明がなされたであろう気配は詩織さんの説明からは読み取れない。

被害届を出さないようにとの説得

「今回はホテルの防犯カメラの映像をチェックした警察が、事件性があることを認めた後ですら「君の経歴に傷がついてしまう。いままでがんばってきた勉強も全部水の泡。あなたも傷つく、家族も傷つく」などと言われ、詩織さんは何度も、警察から被害届を出すのを思いとどまるように説得された。」
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170608-00010012-jisin-soci

この説明が事実だとすれば全く理解しがたい。立件できるだけの証拠がそろっているのに,被害届を出さないようにプレッシャーをかけるなどということは,現在ではおよそ考えられないし,被害届を出すことと,詩織さんの経歴に傷がつくとか勉強が水の泡などということとは何の関係もない。

仮に,証拠不十分で立件できる見込みがなかったとすれば,
「捜査を尽くしたのですが,相手を処罰するための証拠がどうしても足りないのです。刑事裁判では,あなたの言い分が真実でも,証明できる証拠がなければ有罪にはできない。あなたの気持ちを考えると本当に申し訳ないのだけれど,私たちの力が及びませんでした。」
という説明をすべきだろう。

いずれにしても,警察官の説明はおかしい。

また,記事では明示されていないが,詩織氏を「君」と呼んでいる表現からして,この説得をしたのはおそらく男性警察官だろう。この場面でも,人手が足りないわけでもないだろうに,男性が出てくる必要はない。

最後に

以上に述べたように,詩織さんの説明する警察の対応は極めて低く,現代の性犯罪捜査の中で本来守られるべき手順が守られていない。こうしたことは,性犯罪の捜査に当たる可能性のある警察官は,研修を受けてマスターしているはずのことである。

仮に上のような手順がきちんと守られていたとしても,性犯罪の被害者にとって,捜査に応じるのは心身ともに極めて大きな負担を伴う。事情聴取があった日には,自宅に帰って,倒れたり吐いたり,次の日は家から出られなくなってしまうことだって珍しくない。捜査が終わってもそのダメージが長期間残ってしまうリスクもある。

それなのに,その上,犯罪被害者支援の不十分さから,詩織さんが本来受けなくてもよかったはずの二次被害を受けたことについては,犯罪被害者支援に関わる司法関係者の一人として本当に申し訳なく思う。詩織さんの説明する警察の対応は,まるで十数年前の話を聴いているようでショックだった。

この件は,不起訴処分の判断にあたって政治的圧力があったとの疑念が議論されている。そのようなことがあったとすれば,到底許されることではないし,逮捕状の執行が直前に取りやめられるなど,疑念が真実である可能性も示されていることからすれば,徹底的に解明がなされるべきだ。捜査の経緯の検証は,検察審査会だけでは不十分だ。報道機関によるチェックにも期待したい。

ただ,この問題提起を,政治的問題だけに収束してはならない。詩織さんの説明を聞いて,詩織さんが言うように,いったいこの手続でどれだけの人が救われているんだろうかという疑問を私も持たざるを得なかった。犯罪被害者支援に当たる専門家は,これが現時点の実務のレベルであることを再認識し,改善のために声を上げなければならない。



安西敦
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