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痴漢の被害と痴漢えん罪

by 安西敦

7月30日に,痴漢について,被害と,えん罪,防止などについて扱ったイベント"Let Your Voice Be Heard"に参加してきた。主催は,青山学院大学客員教授の岩渕潤子さん,NY州NJ州弁護士の渡邉葉さん,一般社団法人痴漢抑止活動センターの松永弥生さん。この日,いろいろな人の議論を聞いていて,思いついたことをまとめてみる。

私が考えたことの結論は,

(1)被害者には被害者支援が十分に提供されるべき
(2)えん罪を防止するための対策は,被害者と,加害者と疑われる人の双方のためにとられるべき

で,この二つは矛盾しないのではないかということ。
ネット上の議論を見てると,痴漢の被害者(に共感する人)と痴漢えん罪のリスクを訴える人の対立構造みたいになってるんだけど,なんでみんなけんかしてるの…?それを,主に司法の面から考えてみたい。


1.被害者への支援

まず,痴漢に遭った被害者のこと。

まずは,性犯罪被害者としてのサポートがもっとあるべき。
司法による加害者の処罰はそのうちの一つに過ぎない。電車の中で性犯罪にあった人が,相談できる窓口はすぐに見つかるだろうか。臨床心理士にすぐにつながれるか?相談できる弁護士が見つかるか?同じ体験をした被害者と怒りや恐怖や悲しみを共有できる場があるか?
おそらく,多くの被害者はこうした支援にたどり着けていないのではないだろうか。

Twitterでこの議論をしていたら,子どものころに被害に遭って,誰にも言えず,ただ触られただけだと思い込もうとして長年苦しんできたという体験を伝えてくれた人がいた。性被害の影響は,もちろん人によるが,極めて重大なものになることが少なくない。その被害者に適切な支援がなされるべきことに異論はないんじゃないだろうか。

そもそも,痴漢っていう表現をやめるべきなのかもしれない。
痴漢という言葉は軽く見られている面が少なからずある。このイベントで,高校生の被害が非常に多いことが報告されていた。痴漢は,通学途中の高校生に対してなされれば,子どもに対する性的虐待だ。いろんな意見はあるかもしれないが,子どもに対する性的虐待くらいでがたがたいうな,なんて話はあるまい。これは,社会が本気で取り組まなければならないテーマだということをちゃんと共有すべきだ。もちろん,成人に対してなされたからといって軽くなるわけではない。明白な性暴力であり,性犯罪だ。

被害に遭った人に(これは女性に限らない。ジェンダーにかかわらず被害者はいる。)触られただけなんだから大騒ぎするな,みたいなことを言ってるのは,本当に意味がわからない。

まずは,上記のような被害者支援が提供されるべきだ。痴漢の被害者にメリットはあるし,えん罪被害者にデメリットはない。

2.えん罪の対策

次に,痴漢えん罪の側を考えてみる。これは,問題となって久しい。
えん罪があってはならないことは言うまでもない。

痴漢について,日本の司法における問題は,証拠が少なすぎることだ。

被害に遭ったという被害者がいて,自分は犯人じゃないという人がいる。その二人の話しか証拠がない。その二人が言ってることのどっちが本当?というのが司法に課された問いなのだけど,これは難しすぎる。ごくわずか紛れ込むえん罪を見抜くのは至難の業だ。わずかだから,被害者のために甘受しろなどということは絶対に許容できない。多くは被害者の言うことが正しいと思うけれど,でも,被害者が犯人の隣にいた人を犯人だと間違える可能性は否定できない。

証拠が少ないがゆえに,犯人と間違えられてひどい目に遭う人がいる。逆に,間違いなく被害を受けてるのに,証拠が足りないという理由で,加害者を処罰してもらえない被害者もいる。

だから,双方のために,証拠がもう少したくさんあればいい。

性犯罪は,強姦にしろ強制わいせつにしろ,司法の中で扱うのが難しい。それは,密室の中で加害者と被害者の一対一の場面で起こることが多いから。そして,事実を明らかにするための証拠が,被害者と,被疑者被告人の言い分しかないことが多いから。だから事実認定が困難だ。

でも,痴漢の多くは電車の中で起こる。電車の中は密室じゃない。証拠採取の方法がいろいろあるはず。

電車の中に,防犯カメラを設置すればいい。カメラの画像は客観的な証拠だ。性暴力の被害者にとってプラスだし,えん罪であることを明らかにできる証拠でもある。満員電車なら決定的な場面は画像に写らないだろうけど,でも,被害者と加害者の位置関係を明らかにできるだけでも大きな意味がある。

被害者が触られている場面を見てる人たちがいる場合もあるはず。その人達の目撃証言があればかなり違う。でも,目撃者が声を上げるのにかなりの勇気が必要なのが現状だと思う。痴漢だ,と言ってみた後,何が起こるかわからない。加害者から逆ギレされるかもしれない。警察にも行かなきゃいけないのか?通勤途中だから仕事に遅れるとまずいんだけど,とかいろいろ。

電車の中で性暴力を目撃した人が,どうすればいいかのマニュアルがあれば,目撃者が声を上げるためのハードルが下がると思う。まず,被害者に,「大丈夫ですか?助けが必要ですか?」と声をかけよう。別の人は,とりあえず加害者と思われる人の肩をぽんっとたたいてみよう。おそらく,その場で行為は止まるから,まずは被害者をその行為から救出できる。

そして,スマホを持っているまわりの人は,その場の写真や動画を撮れれば後の裁判で証拠になる。痴漢そのものの場面がとれてなくても,その場にいた人たちの位置関係がわかれば重要な証拠になる。その後,駅員さんだったり,警察だったり,どこに連絡すればいいか。加害者がわかるならどんな情報をメモしておけばいいか。そういうノウハウをまとめて,ポスターを作って,どの駅にも掲示しておけばいい。そうすればきっと,目撃者の証言が確保できるようになる。

それに,痴漢は,加害者が被害者に手で触れる。だから,警察が本気になってDNA鑑定をやれば,被害者の衣服に加害者のDNAがついてることが証明できる場合があるはずだ。下着の中に手を入れたというケースなら,加害者の手に被害者のDNAが残るはずだし,被害者にもDNAが残る場合があるはずだ。レイプキットと同じように,被害者の被害を受けた部位から,そして加害者と疑われる人の手から,DNAを採取することはできないだろうか。双方を守るための決定的な証拠になり得る。

こうしたことができれば,間違って誰かがえん罪被害者になることも減る。そして,痴漢の被害者は,きちんと加害者を処罰してもらえる可能性が高くなる。どちらにもメリットになる話だ。

3.予防

最後に予防。
そもそも痴漢が起こらなければ,痴漢の被害者もえん罪被害者もいない。これがもっとも望ましい。

このイベントでは,痴漢防止バッジが紹介された。ずっと被害に遭い続けていた高校生が,これを使い出したら被害がぱったり止まったとのこと。使用法の説明もあったのだけど,肩から鞄をかけたときに,背中側から見えるように,鞄の持ち手などにつける。通常,痴漢は後ろから迫ってくるから,痴漢の正面にこのバッジが見えるということになる。びびって手が出せなくなるのだろう。ちなみに,デザインも高校生に公募してできたものだそう。

この日は議論されなかったけど,もう一つ。
これだけ痴漢が多いのなら,通勤通学時間帯は,女性専用車両がもう1両くらいあってもいいんじゃないかな。女性専用車両については,男性差別だとかいって文句言ってる人たちもいるけど,じゃあ,同じだけ,男性専用車両も作ればいいじゃないの。痴漢だと疑われるリスクも減るし。

などなど,考えなければならないことはいろいろあるな,とわかったのは収穫だった。


安西敦
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