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心神喪失状態だった,麻原彰晃死刑囚の死刑執行

by 安西敦

7月6日,オウム真理教事件の死刑囚7人が1日のうちに執行された。極めて多くの問題点を含んだ執行だったが,麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚の精神状態の問題にはどうしても触れておきたい。

私は,松本智津夫死刑囚の執行は,絶対になされてはいけなかったと考えている。


1.心神喪失状態だった松本智津夫死刑囚

刑事訴訟法479条は,「死刑の言渡を受けた者が心神喪失の状態に在るときは、法務大臣の命令によつて執行を停止する。」と規定している。本来,法務大臣が執行の停止を命じなければならない状態だったはずだ。

松本智津夫死刑囚の三女である松本麗華氏によると,2008年に最後に面会したときの松本智津夫死刑囚は,「面会室に連れてこられた時はオムツを着け、荒れた肌はめくれあがっていた。耳が聞こえているのかも分からないような状態で。大声を出しても全く気が付かない」状態だったという。

麻原の娘の言うことなんか信用できるか,という人もいるかもしれない。でも,第三者である日本弁護士連合会も,この問題を調査した結果,2007年11月6日に「長期拘禁による拘禁反応としての重篤な精神障害に罹患していると思われるので,施設外の精神科医による診察のうえ,」「適切な医療措置を速やかに実施すること。」を東京拘置所長に勧告しているのだ。

この勧告の中で,松本智津夫死刑囚の具体的な状況について,「被拘禁者Aは長期拘禁によるものと思われる拘禁反応を示している。被拘禁者Aの現状については、各医師の見分,事件委員会の見分等から明らかになっており、それらの事実について各医師の判断は、拘禁反応を呈しているという点においていずれも一致している。」と説明している。そしてその症状は治療可能だという医師の意見も引用している。

すなわち,重度の拘禁反応が現れており,その治療が可能であったにもかかわらず,それを東京拘置所が放置していたから日弁連から勧告を受けたのだ。

その後,松本智津夫死刑囚は,弁護士とも家族とも面会できない(当局は面会を拒否していると説明していたようだ)状況が続いていた。松本麗華氏も2008年以降,一度も面会が実現していなかった。 そして,誰も,精神状態を確認できず,外部の医師による精神鑑定も行われないまま,今日,死刑が執行されたのだ。


2.死刑執行場面で何が起こっているかは決して公開されない

死刑執行には検察官が立ち会っている。その検察官は,意思能力を失い自らの意思で刑場に向かうことも,最後の言葉を残すこともできない松本智津夫死刑囚を目の当たりにしたはずだ。しかし,執行のようすを残した報告書は絶対に公開されることはないし(情報公開請求は可能だが全部黒塗りになる),検察官がその様子を外部に話すこともない。全国民が求める麻原死刑囚の執行をいまさら病気などで止めることはできないから,執行してしまったのだ。より極端に言ってみよう。法律はさておいて,民衆が死刑を求めているから死刑を執行する,という判断をしたのだ。

日本の刑事裁判では,弁護人の援助を受けられるのは裁判が確定するまでだ。死刑執行にあたって,弁護人の援助を受けて何かを争うことはできない。でも,本来,この段階にも弁護士の援助が必要なはずだ。例えば,懲役刑を受けていて,刑務官に殴られたなら,自分でそれを弁護士に話すことも,裁判を起こすこともできる。でも,死刑執行でひどい扱いを受けても,後からあれはひどかったと言うことはできない。もう死んでしまっているからだ。

もしかしたら非人道的な執行がなされているケースもあるかもしれない。明治の執行で,首にロープをかけて床板から下に落とした際に,ロープが首に食い込み,首が半ばまで切れて血が噴き出したというケースが報道されている(そのころはマスコミが立会できた)。もしそんなことがあったとしても,弁護人が立ち会っていなければ異議を言うこともできない。


3.死刑執行への弁護人の立会いの必要性

アメリカでは,州によるけれど,死刑囚の家族,弁護人,被害者遺族,マスコミ,州の市民の代表などが執行に立ち会うことができる。オクラホマ州では,薬物注射による死刑執行が失敗して問題になった。これは,マスコミや弁護人が立ち会っていたから明らかになった。もし日本でこういう事故が起こっていたとしても,法務省は,絶対に情報を出さずに隠し通すだろう。

松本智津夫死刑囚の最後はどういう状況だったのだろうか。せめて,弁護人が執行に立ち会い,検証できる制度がなければならなかったと考えている。死刑囚ならどんな方法で殺してもいいわけではない。適正な手続が守られない刑罰の執行は正義ではない。ただの殺人に堕する。



安西敦
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